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執筆者の写真樋野 興夫先生

第205回 『見えざる手の導き』 〜 思いを超えた人生体験 〜

 6月27日 筆者が理事長を務める恵泉女学園の理事会に参上した。 大変有意義な時であった。 6月28日 午前中は、『柏がん哲学外来』(柏地域医療連携センターに於いて)に赴いた。 個人面談の後の、スタッフの皆様との会議、そして昼食は、大変貴重な時となった。 その後、順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科での『病理学概論』に向かった。 今回も教科書『カラーで学べる病理学』を音読しながら進めた。 箇所は、【再生と修復:再生と再生医療、化生、創傷治癒と肉芽組織、異物の処理、肥大と過形成、循環障害:生体と循環のしくみ、充血とうっ血、旁側循環、出血、血液凝固と血栓症】であった。 真摯に教科書を音読する学生の姿勢と多数の質問には、大いに感動した。 全員の拍手で授業を終了した。


 2022年6月29日は、B型肝炎創薬実用化等研究事業キックオフミーティングに外部有識者(評価委員)として出席した【AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)(東京丸の内に於いて)】。 発表者の純度の高い研究は大いに勉強なった。 また、スタッフの皆様の真摯な働きには大いに感激した。 想えば、筆者は、医学部を卒業して、癌研で研究をスタートした。 その時の研究テーマは、「肝発がん」で、化学物質による化学肝発がん、B型肝炎ウイルス(HBV)によるウイルス肝発がん機構であった。 癌研時代に、日本で最初に『肝癌症例におけるB型肝炎ウイルスDNAの組み込み頻度と肝癌発生におけるその評価』を発表し、医学博士の学位を取得し、米国アインシュタイン医科大学肝臓研究センターに留学したのが、鮮明に思い出された(下記)。 筆者は、さらにアメリカのフィラデルフィアのFox Chase Cancer Center留学時代「遺伝性がんの父」Knudson博士(1922 - 2016)との出会いが与えられ、遺伝性がんの研究へと進み、その流れから発見した遺伝子が「アスベスト・中皮腫」研究へと思わぬ展開となり、時代の要請として2005年、順天堂大学で本邦初の『アスベスト・中皮腫外来』の開設となった。 そのことが2008年の『がん哲学外来』の開設に繋がるとは、自分の思いを超えたまさに『見えざる手の導き』を感じざるを得ない人生体験である。


Hino O., Kitagawa T., Koike K., Kobayashi M., Hara M., Mori W., Nakashima T., Hattori N. and Sugano H.: Detection of hepatitis B virus DNA in hepatocellular carcinomas in Japan. Hepatology 4: 90-95, 1984

Hino O., Kitagawa T. and Sugano H.: Relationship between serum and histochemical markers for hepatitis B virus and rate of viral integration in hepatocellular carcinomas in Japan. Int J Cancer 35: 5-10, 1985

Hino O., Shows T. B. and Rogler C. E.: Hepatitis B virus integration site in hepatocellular carcinoma at chromosome 17;18 translocation. Proc Natl Acad Sci U S A 83: 8338-8342, 1986


山極勝三郎 (1863-1930) の「人工発がん」(1915)、吉田富三 (1903-1973) の「肝がん創成」(1932) と日本は世界的な業績がある。 日本は化学発がんの創始国である。 20世紀は「がんを作る」時代であった。 21世紀は「がんを遅らせる」研究で再び、日本は世界に貢献する時であろう。

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